- 2025年9月30日
今年も流行? インフルエンザについてのあれこれ (病態、ワクチン、治療法など)
院長宗形です。
今年もあっという間に9月が終わり、まもなく寒いシーズンが訪れます。
最近では夏から秋を飛ばしていきなり冬になってしまうかのようで、四季を感じにくくなってしまいましたね。秋の雰囲気が大好きな私としては非常に残念で、急激な気候の変動に本当に子供たちの時代の地球が心配になってしまいます。。
閑話休題、冬になると流行するのがインフルエンザなどの感染症です。
今回はインフルエンザについて細かく解説いたします。長文かつ専門的な話も少し入ってしまいますがお付き合いいただき、自分やご家族の身を守るためにもインフルエンザに対する正しい知識や予防方法をぜひ知っておきましょう。
インフルエンザとはなんぞや?
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスの感染によって高熱や咳、倦怠感、筋肉の痛みなど風邪よりも強い症状が出る感染症のことであり、感染症法で五類感染症に分類されている疾患です。
日本では一般的に1〜2月ころが流行のピークとなりますが、2024年は夏に流行したように近年ではこれまでと違った時期に感染の拡大が見られることもあります。
感染が広まる経路としては
①感染者の咳やくしゃみから広がる飛沫感染
②感染者が触れた場所に付着していたウイルスによる接触感染
があります。
インフルエンザにかかった場合、十分な休養や水分補給を行うほかに、症状に合わせた内服やウイルスの増殖を抑える薬を適切に使うことが大切です。
また、予防接種を受けることで、発症や重症化のリスクを下げることができます。

A型、B型以外にも? インフルエンザウイルスの「型」について
実は、インフルエンザウイルスにはA型からD型まで4つの型が知られています。
このうち、季節的なインフルエンザの流行を引き起こすのはA型とB型です。
インフルエンザワクチンはその年に流行するであろうA型とB型の亜型や系統を予測し、複数の種類を混合して作られていますので、A型とB型の両方に有効です。
~A型~
A型はウイルス表面にあるタンパク質の組み合わせにより、144種類もの亜型(サブタイプ)に分けられます。そのため大きなウイルスの変異が生じると、まだ誰も免疫を持っていないため世界的な大流行(パンデミック)を引き起こす可能性があります。一旦パンデミックを起こしたウイルスは、徐々に多くの人が免疫を獲得し、次第に季節性インフルエンザとなっていきます。
A型は人間以外にも豚や馬、鳥など他の動物にも感染することが知られています。
この様に変異を生じやすく、他の動物間で相互に感染するため、他の型に比べて流行が大きく、症状も強くなる傾向にあります。
~B型~
インフルエンザB型は、ヤマガタ系統とビクトリア系統という2つの系統のいずれかに属します。
主に人間と人間の間のみで感染が広がり、季節性の流行を引き起こします。
他にもC型は人間と豚に、D型は主に牛に感染しますが、頻度はまれで社会全体への影響はほとんどありません。
今述べたように、インフルエンザウイルスには多くの亜型や系統がありますが、さらにこの中で小さい変異を繰り返しています。同じシーズンでも例えばA型の複数の亜型が流行することもあります。そのため同じシーズン内でA型インフルエンザに2回かかったり、A型とB型などの異なる型に感染することもあります。
当院でも2024年シーズンにA型に2回、B型に1回の合計3回かかってしまった方や、A型とB型の両方同時にかかった方もおられました。(A型+B型+コロナの3つ同時になってしまった方もいらっしゃいました。。。)
時々A型とB型で症状が異なる、という話を見聞きしますが、実際にはインフルエンザB型に特徴的な症状というものはなく、症状からA型とB型を区別することは困難です。
また、症状に対する対処方法や、出席停止期間もA型とB型で違いはありません。
ただ、一般的にはインフルエンザA型の方が強い症状が出やすく、発生頻度や流行の程度も大きいとされています。 インフルエンザの非常に怖い合併症であるインフルエンザ脳症についても、特にA香港型の際に多発するとされますが、B型でも発症することがあります。
インフルエンザの症状
インフルエンザの症状は、38℃を超えるような高熱、頭痛、筋肉痛や全身の関節痛が比較的急速に現れ、その後に咳や痰、鼻水を伴って改善までに約1週間を要します。
多くの場合、インフルエンザの症状は風邪と似ていますが、より重度で長期間続くことが特徴です。また、高齢の方や持病をお持ちの方では肺炎などの2次的な細菌感染症を起こして入院加療が必要になったり、亡くなったりするリスクもあります。このため、適切な治療を早期に受けることが大切です。
さらに、小児においてはインフルエンザ脳炎・脳症といわれる急激に悪化する脳症を発症することもあり、油断は禁物です。
症状が現れるのに時間がかかるため(感染してから症状が出るまでの潜伏期間は1~3日と言われています)、感染が疑われる場合には家族や友人などにうつさないよう予防することも同様に重要です。
予防について
・家庭や職場での予防はどうすればよいの?
感染流行期にはウイルスとの接触機会を減らすためにも人混みや繁華街への外出を控え、体調不良時には会社や学校を休むことも考えましょう。
予防対策としては、手洗いとうがいが重要です。家に帰ったら、まずしっかりと手洗いとうがいをする習慣を付けましょう。
また、空気が乾燥すると気道の防御機能が落ちて感染しやすくなることから、部屋を加湿器などで加湿することも一つの方法です。 感染者が同じ空間にいる場合、部屋を定期的に換気することで、室内のウイルス量を減らすことができます。
これから述べる予防接種を受けることも予防の助けになります。
万一自分が感染してしまった時にはマスクを着用し、咳エチケットに気を付けることで感染の拡大を防ぎましょう。また、接触感染を防止するためにタオルや食器などの共有するものを一時的に少なくしたり、除菌しておくなどの対策が有効です。
・インフルエンザの予防接種(ワクチン)について
インフルエンザの感染そのものはウイルスが口や鼻、目の粘膜などから体に入ることで成立します。感染後に体内でウイルスが増殖して症状が出ることを発症といいます。
ワクチンにはインフルエンザウイルスの感染を完全に抑える働きはありませんが、発症の割合を低くし、肺炎や脳症などの重症化を予防する効果が認められています。
例えば、高齢者に対してワクチン接種を行うと、接種しなかった場合と比較して入院するリスクを1/2~1/3位、死亡の危険性を1/5程度に減らす事が期待できます。
通常のインフルエンザワクチンはウイルスの感染力を無くし、必要な成分のみを取り出して作った不活化ワクチンといわれているもので、ワクチン接種によってインフルエンザを発症することはありません。
ワクチンはその年に流行すると予測されるインフルエンザウイルスの型に応じて製造されているため、前年にワクチンを接種した方でも毎年受けることが望まれます。
接種後に効果が出るまで2~4週かかるとされていますので、ワクチン接種は流行のピーク前に済ませておきましょう。
インフルエンザワクチンは鳥の卵を使って製造されるため、重度の卵アレルギーのある方では接種に注意が必要ですが、近年では製造技術の向上等により軽度の卵アレルギーでは問題にならないことが多いとされています。卵アレルギーをお持ちの方は、接種が可能かどうかをご相談ください。

・新しく登場した鼻から投与するワクチン(注射針は使いません!)
2024年に鼻から投与できる新しいタイプのワクチン(フルミスト)が登場しました。
従来のワクチンと異なり注射ではなく、両方の鼻の穴に噴霧することで効果を発揮します。
フルミストはこれまでの不活化ワクチンとは異なり、弱毒化させた生ワクチン(インフルエンザウイルスそのもの)です。
鼻に噴霧することでインフルエンザに感染した場合と類似した状況を作りだし、その結果インフルエンザに対する免疫を獲得できます。ただ、注意点としては弱毒化しているとはいえインフルエンザウイルスそのものを投与するため、免疫力が低下している状況にある方や、ステロイドや免疫抑制剤などの免疫力を抑える薬を使っている方には使用できません。すでに抗インフルエンザ薬を使用中の場合もインフルエンザウイルスの増殖を抑えるため効果が減弱してしまいます。
ただ、どうしても注射を嫌がってしまう小児の方には良い適応になりえると思います。 現在本邦では2歳から19歳未満の方に投与が可能となっています。注射嫌いな大人の方、申し訳ありません。

万一、インフルエンザにかかってしまったら??
・ご家庭での対処法
インフルエンザにかかってしまった場合、安静にしてしっかり休むことが一番の対処法です。
発熱と食欲の低下によって脱水の危険性がありますので、水分を十分にとるようにしましょう。水分はお茶やスープなど飲めるものであればなんでも構いません。
万一、高熱が続いたり呼吸の苦しさを感じた場合、意識の状態がおかしいなどの場合にはすぐに医療機関を受診してください。
未成年の方では、インフルエンザ感染症によって部屋から飛び出したり歩き回ったりといった異常行動を起こすことがあるとされています。自宅で療養をする場合には少なくとも2日間は1人にならないよう、おうちの方が見守るなどの配慮をお願いします。
医師から処方された薬をきちんと服用することも大切です。決められた用法を守って内服して下さい。
・治療薬について
(小児の方への解熱鎮痛薬は少し注意が必要です。次回のブログで解説します。)
一般的な解熱鎮痛薬や咳止め、たん切り薬等の他に、インフルエンザウイルスの増殖を抑えるための薬が用いられます。
これらの薬は抗インフルエンザ薬といわれ、つらい症状を軽くして症状の期間を1〜2日短縮することが期待できます。
インフルエンザA型、B型ともにタミフルやリレンザ、ゾフルーザ、イナビルなどの抗インフルエンザ薬が有効です。
ただし、これらの薬はウイルスの増殖を抑えるものであり、直接熱を下げる効果はありませんし、高い効果を得るには発症から早いタイミング(48時間以内)に開始する必要があります。
また、(現在はあまり使われませんが)アマンタジンという薬だけはインフルエンザA型のみに有効で、インフルエンザB型には無効です。
・抗インフルエンザ薬の予防投与とは??
周囲にインフルエンザになってしまった方がいる場合、発症を予防するために抗インフルエンザ薬を予防的に使用することができ、これを予防投与といいます。
お薬の種類によっては治療と予防投与で飲み方や日数が異なります。
予防投与の対象となる方は感染者と同居している方のうち、65歳以上の方、慢性的な肺や心臓の病気をお持ちの方、糖尿病などをお持ちの方、腎不全の方などです。
予防投与を行うことにより発症リスクを低減できますが、注意点があります。
- 保険診療外の自費診療になるため高額になること。(診察代+お薬代で約1万円程度)
- 万一副作用が生じた場合、原則として医薬品副作用被害救済制度の対象外となること。
上記を十分にご説明し納得いただいたうえで、ご希望の方に対して処方を行います。 「受験の直前にご家族がインフルエンザになってしまった」といった場合には上記に当てはまらず原則として処方できかねますが、どうしてもご希望の方は医師にご相談ください。
出席停止期間について
・<小児・学生の場合>
学校保健安全法施行規則というもので出席停止期間が定められています。
出席停止期間は、発症した日を0日目として5日間を経過し、かつ、解熱した日を0日目として2日間(小学生未満の幼児では3日間)であり、この期間が経過するまでは保育施設や学校に行くことはできません。
日数と解熱の2つの要件を両方満たす必要があるので、注意しましょう。

・<社会人の場合>
小児や学生とは異なり、法令に基づく外出・出社制限はありません。ただし、一般的にインフルエンザは発症の前日から発症後1週間程度はウイルスを排出すると言われています。 ご自身の健康だけでなく、他の方への感染流行を防止するためにも会社とよく相談し、きちんと休養をとるようにしましょう。
最後に
インフルエンザは冬季に流行しやすい病気で、発熱、咳、筋肉痛、頭痛、だるさなどのつらい症状があらわれます。かかってしまった場合には安静にしてしっかり休養をとり、十分な水分摂取に努めて適切な薬を服用することが大切です。また、予防のためにも手洗いや予防接種等の対策をしっかりと行いましょう。
非常~~に長い文章に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
お困りの際にはいつでも小滝橋そら内科クリニックへご相談ください!